なまこの歴史 〜海から食卓へ、そして世界へ〜
一見地味で不思議な姿をした「なまこ」ですが、人類との関わりは驚くほど古く、そして広がりがあります。食文化から薬用、国際貿易まで、なまこは長い歴史の中で重要な役割を果たしてきました。
古代中国と薬用の歴史
なまこの歴史を語る上で外せないのが古代中国です。紀元前から「海参(ハイシェン)」と呼ばれ、滋養強壮の妙薬として珍重されていました。
中国最古の薬学書『神農本草経』には登場しないものの、明代の『本草綱目』(16世紀、李時珍著)には「滋養に優れ、虚弱体質を補う」と記されており、皇帝の食膳にも上がる高級食材でした。
日本でのなまこ利用
日本では奈良時代の文献『続日本紀』(8世紀)に、なまこが朝廷に献上された記録が残っています。平安時代には貴族の食卓にも供され、江戸時代には「このわた(腸の塩辛)」が珍味として広く知られるようになりました。
また、三重県志摩地方で作られる「乾燥なまこ(きんこ)」は保存食として珍重され、交易品としても重要な価値を持ちました。
国際貿易と高級珍味
江戸時代になると、なまこは日本から中国へ輸出される主要な海産物のひとつとなりました。特に長崎や北海道から乾燥なまこが大量に輸出され、「俵物(たわらもの)」と呼ばれる輸出品の代表格に。俵物は、なまこ・ふかひれ・干しアワビの三種を指し、清国との貿易に欠かせない品でした。
中国では乾燥なまこは正月や祝宴に欠かせない高級食材であり、現代に至るまで富裕層の食文化に根付いています。
現代に受け継がれるなまこの価値
現代では、なまこは世界各国で消費されています。中国、香港、シンガポールなどの中華圏だけでなく、地中海や東南アジアでも食材として利用されています。また、美容・健康の観点からコラーゲンやサポニンなどの成分が注目され、化粧品や健康食品に応用されるようになりました。
まとめ
なまこは「海の掃除屋」としての役割だけでなく、古代から人々の食と健康を支えてきた歴史を持ちます。奈良時代から続く日本での利用、中国での薬膳文化、江戸時代の国際貿易…その歩みをたどると、なまこがいかに「人と海をつなぐ存在」であったかが分かります。